なぜ都立高校は「予備校型」になりやすいのか
――高校選びで「進学実績」だけを見てはいけない理由
なぜ都立高校は「予備校型」になりやすいのか
――高校選びで「進学実績」だけを見てはいけない理由
塾の先生をやっていると生徒が高校で出される宿題や愚痴からいろんな姿が見えてきます。
今日はちょっとそんな話です。
都立高校を見ていると、ときどき不思議に思うことがあります。
「主体的な学び」
「探究」
「思考力・判断力・表現力」
そんな言葉が学校案内には並んでいるのに、実際に入学すると、
授業を聞く。
大量の宿題をやる。
小テストを受ける。
また宿題をやる。
いつの間にか、学校そのものが予備校のようになっていることがあります。
もちろん、すべての都立高校、すべての先生がそうだという話ではありません。
問題にしたいのは、都立高校がそういう方向へ傾きやすい構造です。
1.各教科の先生は、それぞれ正しい
高校には国語、数学、英語、理科、社会と、それぞれ専門の先生がいます。
数学の先生は、
「大学受験にはここまで必要です」
と言います。
英語の先生も、
「この単語量では足りません」
と言います。
社会の先生も、
「これくらい覚えておかないと受験では戦えません」
と言います。
一つ一つを見れば、たいてい間違ってはいません。
ところが、生徒は一人です。
数学の宿題もやります。
英語の単語テストもあります。
国語の課題もあります。
理社の暗記もあります。
部活動もあります。
学校行事もあります。
各教科がそれぞれ100点を目指して課題を出せば、生徒側では500点分の負荷になります。
これは、少し意地悪に言えば、
指揮者のいないオーケストラ
のようなものです。
みんな真面目に演奏している。
しかも、みんな同じ「大学合格」という曲を演奏している。
しかし、テンポも音量もそれぞれ勝手です。
学校全体として、
「この学年には今、どれだけの学習負荷をかけるのか」
「何を学校でやり、何を家庭学習に回すのか」
「この生徒には既にできている内容を本当にもう一度やらせる必要があるのか」
という統合的な設計が弱ければ、結果として宿題と授業が積み上がっていきます。
2.本来、その指揮者になるべきなのが校長です
校長は、数学の問題を全部解ける必要はありません。
しかし、
数学科が何をしているのか。
英語科がどれだけ課題を出しているのか。
探究活動と受験勉強が競合していないか。
生徒の総学習量は適切なのか。
少なくとも、それくらいは学校経営として把握している必要があります。
本来のカリキュラム・マネジメントとは、
何をやるかを決めるだけではなく、何をやらないかを決めること
でもあります。
ところが、学校管理職には別の圧力もかかります。
事故を起こさない。
保護者からクレームを受けない。
進学実績を落とさない。
新しい教育実践には失敗がつきものです。
それに対して、
「面白そうだからやってみよう。失敗したら直そう」
ではなく、
「何か問題が起きたら困るから、従来通りにやろう」
となれば、学校は当然、保守的になります。
管理職のキャリアに傷がついたら大変ですからね。
その結果、
管理職は教育の指揮者ではなく、クレーム処理係になり、教師は失敗を恐れて萎縮する
ということが起こります。
3.しかも東京都自身が「大学合格」を学校評価の指標にしている
これは単なる印象論ではありません。
東京都教育委員会は、日比谷、西、国立、戸山などを「進学指導重点校」に指定しています。
その選定基準には、
共通テスト5教科7科目受験者の割合
共通テストでおおむね8割以上を取る生徒の割合
東大、一橋大、東京科学大、京大、国公立医学部医学科への現役合格者数
が明示されています。
つまり、学校側から見れば、
大学合格実績は行政から正式に測定されるKPI
なのです。
これは学校にとってかなり強い圧力です。
「生徒が面白い研究をした」
より、
「東大に何人受かった」
の方が簡単に数字になります。
そうなれば、学校が受験指導へ傾くのは、ある意味では合理的です。
4.戸山高校自身も「板書と講義中心から脱却する」と書いていた
興味深い例があります。
戸山高校はSSH(スーパーサイエンスハイスクール)として長く探究教育に取り組んできた学校です。
ところが2021年の学校経営計画には、わざわざ、
「板書と講義中心の受動的・一方通行的な授業形態を脱却」
することが目標として書かれています。
同じ計画の中には、
成績上位層への指導、
「志望校を下げない指導」、
模試データの活用、
夏期講習、
中下位層の底上げ、
なども並んでいます。
つまり、
探究教育を掲げる学校であっても、日常の学校文化は放っておけば受験指導型へ戻り得る
ということです。
「SSHだから探究的な授業ばかりだろう」
とは限りません。
昔、塾生が「座学ばかりでつまらない」と嘆いていましたし、当時の先生も「SSHが形だけになってしまって残念だ」とも…(何年の話かはヒミツ)
学校の看板と、毎日の授業は別に見なければなりません。
体験授業と通ってみてからの授業が全く別物なんて話もあっちの学校、こっちの学校で聞きますなあ。
逆に、2026年現在の外山高校では「第V期に向けた新体制」「SSH事業では新たなステップに向けて教育課程や海外交流事業等の一部を変更し、生徒一人一人の主体的な学びをこれまで以上に支援」と言っているのでSSHを積極的に推進しているのかしら。
5.そして大学入試そのものは、むしろ別方向へ動いている
ここが現在2026年の高校教育の少し奇妙なところです。
大学入試では、一般選抜だけでなく、
学校推薦型選抜
総合型選抜
の比重が非常に大きくなっています。
文部科学省の調査では、大学入学者全体で、
一般選抜 48.6%
学校推薦型選抜 36.5%
総合型選抜 14.9%
でした。
私立大学だけを見ると、
一般選抜 40.4%
学校推薦型選抜 42.1%
総合型選抜 17.5%
となっています。
つまり私立大学では、推薦+総合型で約6割です。
なお、「学校推薦型選抜」には指定校推薦だけでなく、公募推薦なども含まれます。
それでも、高校1年生からの評定が大学進学に影響する生徒が非常に多くなっていることは間違いありません。
6.すると高校1年生から「失敗できない」
指定校推薦などを考える場合、高校3年生になってから頑張ればよいわけではありません。
高校1年生からの評定が校内選考に使われます。
すると高校生活は、
「いろいろ試して、自分の興味を見つけよう」
よりも、
「定期考査で失敗しない」
「提出物を落とさない」
「評定を下げない」
というゲームになりやすくなります。
大学入試改革では、
主体性、
探究、
思考力、
表現力
が重視されるようになりました。
ところが、その入口に立つために、
高校1年から失敗しないことを要求される
という矛盾が起きています。
教育ではよく、
「失敗から学びなさい」
と言います。
しかし制度の側では、
「ただし高1の失敗は調査書に残します」
となっている。
これはなかなか難しい問題です。
7.だから「宿題が多い学校=面倒見がよい」とは限らない
高校説明会では、
「課題をしっかり出します」
「学校だけで大学受験まで対応します」
という言葉が、保護者には安心材料として聞こえることがあります。
しかし、少し注意が必要です。
宿題が多いことと、教育が丁寧であることは同じではありません。
本当に見るべきなのは、
その宿題が、その生徒に必要なのか
です。
既にできる生徒に同じ問題を大量に解かせても、時間を消費するだけです。
逆に、基礎が抜けている生徒に難しい課題を大量に与えても、学力は伸びません。
必要なのは量ではなく、
現在地を見て、次に必要な課題を出すこと
です。
8.高校選びでは「出口」だけでなく「6年間・3年間の生活」を見る
東大○人。
早慶○人。
国公立○人。
もちろん大切な情報です。
しかし、それだけで高校を選ぶと、
「大学には受かったけれど、高校生活はずっと宿題とテストだった」
ということも起こります。
学校説明会では、ぜひ次のようなことも聞いてみてください。
1日の家庭学習課題はどの程度か
教科間で宿題量を調整しているか
既習内容が多い生徒への対応はあるか
探究活動には実際にどの程度の時間を使っているか
高1からどの程度大学受験を意識した指導をするのか
定期考査と推薦入試をどう位置付けているか
生徒が自分の興味を深める余白があるか
そして、できれば在校生にも聞いてください。
「この学校、楽しい?」
案外、この質問が一番本質を突いています。
最後に
私は、大学受験指導そのものを否定しているわけではありません。
基礎学力も必要です。
反復も必要です。
宿題が必要なときもあります。
問題は、
「何のために、誰に、どれだけやらせるのか」
が失われることです。
教師一人ひとりが一生懸命でも、全体を統合する人がいなければ、教育は簡単に過積載になります。
高校は予備校ではありません。
高校3年間は、大学に入るためだけの準備期間でもありません。
学び、失敗し、興味を持ち、ときには寄り道をしながら、
自分で学べる人間になるための時間
でもあります。
高校を選ぶときには、合格実績だけでなく、
「この学校は、生徒の3年間をどう設計しているのか」
をぜひ見てほしいと思います。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私はアイ教学舎をあまり大きな塾にしたくないと、実は思っています。
全体の統合、理念「学びを楽しく豊かなものに」や意志の共有が難しくなってしまうからです。
でも、
小3から大人になるまで塾に通ってくれた生徒たちが、
学びによって人生を楽しく豊かなものにできたと言ってくれると
ああ、間違っていなかったなと胸をなでおろして、ちょっと泣いちゃいます。(;_;)
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